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開催レポート【2023/12/11】 全国の事例から見る、交通まちづくりの進め方〜「乗り合い交通」最前線とその裏側〜

ウェビナー概要

地域交通・まちづくりの課題解決のためのデータ利活用を推進する
「交通まちづくりDX人材育成プログラム in 九州」の第2弾となるウェビナーです。
昨今、日本におけるライドシェアの動向が改めて注目されていますが、
「日本版ライドシェア」とも言える、住民のマイカー・ドライバーによる「共助型乗合交通」を実現・継続運用されている、
富山県朝日町の「ノッカルあさひまち」について、お話しいただきます!

EBPMの画像
合意の画像

Event Report

マイカー乗り合い公共交通 ノッカルあさひまち 富山県朝日町

バスとタクシーの中間サービスとして開発された、富山県下新川郡朝日町の共助型公共交通「ノッカルあさひまち」。朝日町役場商工観光課地域交通係の小谷野黎さんに、地域に新しい交通サービスを導入することになった経緯や、現在の運営状況についてお話いただきました。

以下は、講演の要旨です。

なぜ、地域に新しい交通サービスが必要だったか

朝日町は人口10,798人、4,636世帯、高齢化率は45%。富山県内でもっとも高齢化率が高い町で、町内全域過疎指定を受けており、消滅可能性都市にも指定されています。

こちらは、現在の朝日町の地域交通一覧です。

朝日町の地域交通

ノッカルあさひまちを含めて、大きく5つのモビリティがあります。

ノッカルができる前の町内のお出かけ手段は、コミュニティバス、黒東タクシーの2つでした。町内で交通事業者はこのタクシー業者のみで、あさひまちバスの運行も黒東タクシーに委託しています。

まず、町にバスとタクシーしかなかった頃の移動課題を掘り下げていきます。

全国共通の社会課題

全国的な課題として、地域交通確保のための特別交付税は年々増えており、令和元年度には700億円を超えました。折れ線グラフは3大都市圏を除く地域のバスの輸送人員ですが、こちらは年々減少。収支は悪化して、事業者が撤退していきます。

この流れを受けて各自治体は交通インフラを整備し、コミュニティバスを運行して住民の生活の足を確保しています。地方は「地域交通の公助依存」が顕著です。

朝日町も、平成の初頭からコミュニティバスの運行を開始しました。運賃は一律200円。路線上の安全な場所であればどこでも乗降可能で、人口10000人規模の町としては大変利便性の高い公共交通です。

朝日町の移動課題

朝日町は、典型的な車社会です。人口10000人に対して、自家用車保有台数は約8000台。車生活に慣れてしまうと、免許を返納した後もなかなか公共交通での生活になじめません。これが車社会のひとつの移動課題でもあります。

また、コミュニティバスは全域を3台で運行していますが、地域ごとに利便性の格差があります。タクシーは中心部から遠い方は高額な運賃がかかりやすいのが課題です。

町としては、財政負担をなるべく抑えて移動手段を充足させたいと考え、タクシー事業者にも「移動しやすい環境が整えられれば、公共交通全体の利用の底上げになる」と理解いただけたため、新しい交通サービス導入の検討が始まりました。

住民がマイカーにご近所さんを乗せる「ノッカル」

新しい交通サービスを導入しようとすると、地元の交通事業者に反対されるケースがありますが、私たちは元々バスの運行を委託していた信頼関係がありました。そして、これからご紹介するノッカルは、タクシーとサービス上すみ分けをしているため、タクシー業を圧迫しないことをご理解いただいています。

ただ、町・交通事業者・地元の思いだけでは、新しいものはなかなか生み出せません。専門性のある外部の方々にも加わっていただき、実証実験推進協議会を発足。サービス設計、実装まで行いました。

課題解決に向けて新たなサービスを検討

無償の実証実験をスタートしたのは令和2年8月。令和3年1月から有償の実証実験に切り替えました。令和3年10月から本格運行開始し、ようやく2年が経過したところです。

生活に欠かせない交通インフラ

ノッカルのサービス設計にあたり大事にしたのは、「みんなで支える、みんなで考える」。交通は生活のさまざまな場面に密接に関わるので、住民と不可分の関係です。

ノッカルの紹介です。

共助型移動サービス『ノッカルあさひまち』

住民がドライバーとして関わる「ノッカル」の根幹となっています。

住民の方がマイカーで出かける際に、ご近所の方を一緒に乗っける仕組みです。あくまでもドライバーのマイカー利用が起点で、そこに利用者が合わせます。

重視しているのは、余計なものを持ち込まず、地域に元々あった資源に光を当てること。

❝地元にある資源/財産❞がノッカルの源

資源は約8000台あるマイカーと、それを運転する住民。そして地域のお互い様精神です。ノッカルはお互い様の気持ちがないと成り立ちません。

ノッカル以前も、もちろん助け合いの送迎は日常的に行われていましたが、法的な位置付けはない状態でした。乗せる側は「万が一事故があったらどうしよう」と心配ですし、乗せてもらう側は「毎回無料で乗せてもらうのは…」と気兼ねします。

❝お互い様の気持ち❞こそ最大の資産

助け合いの気持ちをサービス化することで、乗る側、乗せる側双方の対等性をきちんと保ち、万が一の事故に備えた安全性も担保できる。持続可能な移動課題の解決策になりうると考えました。

地元の事業者との関係も重要です。ノッカルはタクシー事業者に運営管理業務を委託し、ともに運営していく共創関係を実現しています。令和2年に、事業者協力型自家用有償旅客運送の全国第一号になりました。プロの事業者にお任せすることは、行政の業務負荷軽減、住民の安心安全にもつながります。

また、町内の施設、飲食店、医療機関とも連携しています。公共交通は目的がなければ利用されません。目的地となる飲食店、スーパー、病院等との連携が大切です。町内の温浴施設と連携し、ノッカルでお風呂に入りに行くと入浴料が割引になるなどの連携施策を行って、交通・施設・地域がトリプルウィンになる関係を築いています。

サービスの安全性確保もきちんと行っています。ドライバーは国土交通大臣の定める安全講習を受け、運転前のドライバー点呼も実施します。

サービスの安全性確保

事故に備え、町は自家用有償向け保険に加入していますが、あくまでもこれは保険の保険。事故が発生した場合に優先して適用されるのはドライバーの任意保険です。

ノッカルは、ドライバーが出かけるついでに利用者を乗せる仕組みです。利用者がいなくても、その事故は発生したという考え方に理解いただいた方にドライバーになっていただいています。

アナログとデジタルを融合

ノッカルの利用方法を説明します。

ドライバーのお出かけに一緒に乗っかる

これが時刻表です。曜日・時間ごとに担当のドライバーが決まっていて、利用者は乗りたい便を選び、電話かLINEで予約をします。

運賃の支払いは現金ではなく、バスの回数券600円分。予約期限は、前日夕方5時までとしています。

予約期限を5時にしている理由の1つは、タクシーとのすみ分けです。当日に予約できるのはタクシーの最大のメリットですので、その領域を犯さないようにしています。

もう1つはドライバーの負荷軽減です。ドライバーは一般の住民で、他にお仕事をお持ちです。当日に急に予約が入って対応できる方はなかなかいません。

また、ドライバーにも都合がありますから、毎週この時刻表通りに行けるとは限りません。ドライバーはドライバーアプリで、行ける便・行けない便を設定でき、行けると設定した便のみに予約が入る形になっています。無理なくできる範囲での協力をお願いしています。

アナログ×デジタルの絶妙な組み合わせ

紙の時刻表・紙のバス券などは、高齢の方でもなじみやすいようにアナログに設計していますが、運行管理システムやドライバーアプリ、利用者のLINE予約などはしっかりデジタル化して、安全運行を叶える仕組みを構築しています。

住民のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上の効果も

利用者の効用の一つに、「+αの豊かさの向上」があります。

利用者側の効用(豊かさの向上)

この円グラフは、令和4年度のノッカルの目的別利用者数です。青は病院、水色はスーパーですが、一番多い黄色は、町内の温浴施設とコミュニティカフェ。生活に欠かせない場所というよりは、生活の質を高める場所です。

「行きたいんだけど、家族に送迎をお願いしにくい」といったニーズの受け皿になり、生活の質の向上に貢献できていることは、大変嬉しい発見でした。

ノッカルあさひまちの利用実績

こちらはノッカルの利用実績です。会員登録者数は右上の折れ線グラフで示しているように少しずつ増えています。

特徴的なのは、下の棒グラフが示す予約件数と利用人数です。当初は予約件数と利用人数はほぼ同じでしたが、最近は差が広がっています。徐々に住民に定着し、複数人で誘い合って乗り合いでご利用いただくケースが増えてきました。

なお、ドライバーの運行報酬は1運行あたり200円ですが、現金ではなく、町で使える商品券で支払っています。実証実験で、「現金を受け取るのは抵抗がある」ということが分かったためです。

最後にコスト圧縮の効果についてもご説明します。

地域資源の最大活用によるコスト圧縮モデル

左側がコミュニティバス、 右側がノッカルの収支のイメージです。人件費や車両費が圧倒的に圧縮されています。

交通インフラの維持には❝みんなの自分事化❞が必要

町だけで公共交通を維持していくのは絶対に無理です。住民の皆さんには公共交通を「行政が提供するもの」ではなく、社会的な共通資本として考え、自分事化していただきたいです。ノッカルの場合なら、ドライバーとして参加する、移動手段が必要な方・困っている方にノッカルを紹介するなど、どんな形でも積極的に関わっていただきたいです。

助け合いの輪を広げて❝明るい日本❞を目指す

富山県高岡市ではノッカル第2号がスタートしました。全国各地からも視察にいらっしゃっています。ノッカルのベースは、住民の方の助け合いの気持ち。いい部分が全国に波及して、移動課題の解決策に活用していただきたいです。

当然ながら我々のノッカルもまだ完成形ではありません。課題を一つ一つクリアしながら、ずっと続けていける移動サービスとして確立していけるといいなと思っています。

QAセクション

Q

ノッカルは現在は時刻表をベースとした予約システムですが、将来的に運行者の供給と利用者とのニーズをフレキシブルにマッチングさせる方式に移行する構想はありますか。

A

ありません。それはどちらかというと利用者に寄り添う視点だと思いますが、ノッカルはドライバーの外出予定が根底にある、ドライバーありきのサービスです。供給面が一番大事だと思っているので、 ドライバーが活動しやすい形は今後も崩さずに継続していきたいです。

利用者からは「当日予約できないのか」「もうちょっと便利にならないのか」という声もいただきますが、それも重々承知の上で、「ノッカルは若干不便なんです。不便だからこそ続けていけるんです」とご説明しています。

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